
リーダーシップとウェルビーイング:希望を創り出すリーダーの役割
「組織の成長を担うリーダーになりたいが、何が正解かわからない」
「チームのモチベーションを高めたいが、思うように成果が上がらない」
「管理職としての役割が求められる一方で、自分自身も不安を抱えている」
このような悩みを抱えている経営者やマネージャーの方は多いのではないでしょうか。
かつての日本企業では、リーダーの役割は「組織の維持と管理」が中心でした。しかし今、テクノロジーの進化や働き方の多様化、グローバル競争の激化により、「人を導く力」がこれまで以上に求められています。従来のマネジメント手法だけでは、もはや組織は動かせないのです。
特に、2025年2月に発表されたギャラップ社の最新リーダーシップ調査は注目に値します。この調査によれば、世界中の従業員がリーダーに求めるものとして、「希望(Hope)」「信頼(Trust)」「思いやり(Compassion)」「安定(Stability)」の4つの要素が浮かび上がってきました。そして驚くべきことに、「希望」こそが最も多くの従業員がリーダーに求める要素なのです。
これは何を意味するのでしょうか。リーダーが単に業績を管理する存在ではなく、「この会社で働く意味がある」「自分の未来は明るい」と社員に思わせる役割を果たすべきだという明確なシグナル。従業員が求めているのは、目の前の数字だけでなく、未来への道筋なのです。
本記事では、ギャラップ社の調査結果をもとに、「リーダーに求められる要素とは何か?」を解説。企業のリーダーが実践すべき具体的なアクションについても提案していきます。
1. なぜ今、リーダーシップが問われているのか?
かつての日本企業で「リーダー」といえば、主に組織を管理し、業務を円滑に進める存在でした。しかし、現在の企業環境は大きく変化し、従来のリーダー像ではもはや立ち行かなくなっています。時代は新たなリーダー像を求めているのです。
では、何がそうした変化を引き起こしているのでしょうか。近年、日本企業を取り巻く状況には、以下のような重要な変化が生じています。
- DX(デジタル・トランスフォーメーション)によるビジネスモデルの急速な変革
- グローバル市場の競争激化による、より高度な経営判断の必要性
- 働き方の多様化(リモートワーク、副業、フレックスタイムの普及)によるマネジメントの難易度上昇
- 終身雇用制度の見直しによる、従業員のキャリア志向の変化
このような変化の波の中で生き残るには、「従業員が安心して働き、成長できる環境を整えるリーダー」が不可欠となりました。単なる管理者ではなく、希望を示し、信頼を築き、思いやりを持ち、安定を提供するリーダーシップ。それが今、強く求められているのです。
2. ギャラップ調査が示す「リーダーに求められる4つの要素」
2025年2月に発表されたギャラップ社の最新リーダーシップ調査。この調査は、世界中の従業員がリーダーに求める最も重要な要素が「希望(Hope)」であることを鮮明に浮かび上がらせました。
ギャラップが52カ国を対象に実施した調査によると、リーダーに求められる4つの要素の内訳は以下の通りです。
従業員が未来に期待を持てるよう、リーダーには明確なビジョンを示す力が必要です。
「この会社で働くことで、自分の未来も明るくなる」
—このような実感を従業員に持たせることこそが、リーダーの核心的役割なのです。未来への希望なくして、現在の努力は続かない。この単純な真理が、調査結果からも読み取れます。
経営の透明性を高め、リーダー自身が信頼を得る行動を取ること。これは組織運営の基盤となります。
オープンなコミュニケーションを通じて、経営層と現場の間に信頼関係を築く。その姿勢がなければ、どれほど優れた戦略も絵に描いた餅となってしまうでしょう。
従業員一人ひとりを尊重し、心理的安全性を確保するマネジメント。この点も見逃せません。
どんな意見も言える環境、チャレンジを奨励する文化を作ること。これがイノベーションを生み出す土壌となるのです。
変革の必要性が叫ばれる一方で、組織には安定も必要です。
変化のスピードを適切にコントロールし、従業員が不安を感じないよう配慮する。この「変化と安定のバランス」こそ、リーダーの高度な舵取りが問われる部分といえるでしょう。
このデータから読み取れるのは、「企業の成長には、従業員が安心して働ける環境が不可欠である」という事実。単に業績を上げるだけではなく、従業員の「心理的な充足」を支えること。それがリーダーの重要な役割となっているのです。数字だけを追うリーダーシップの時代は、確実に終わりを告げています。
3. これからのリーダーが取るべきアクション
前章では、リーダーに求められる「希望」「信頼」「思いやり」「安定」という4つの要素について解説しました。では、これらの要素を実現するために、具体的にどのようなアクションを取るべきなのでしょうか。実践的な視点から考えてみましょう。
①「希望」を生み出すために:ビジョンを明確に伝えるリーダーシップ
希望とは単なる楽観論ではありません。「この会社で働くことで未来に期待が持てる」という確信を従業員に与えること。それこそが真の希望の創出です。
「当社は3年後に◯◯市場でシェアを拡大する」
「5年後には海外展開を進める」
—こうした具体的な目標提示が重要。
目標を短期・中期・長期の3段階に分けて伝えれば、従業員は成長のイメージを具体的に描けるようになります。漠然とした未来像では、希望は生まれません。
企業の成長と個人の成長がリンクしていると感じられる環境づくりが鍵。
「〇〇の資格取得を支援します」
「リスキリング研修を提供し、将来的なキャリアを広げていきましょう」
—このような具体的な成長機会の提供が、従業員の未来への期待感を高めるのです。自己成長なくして、仕事への熱意は続かないものです。
DX推進や組織変革など、新たな取り組みを実施する際には、「従業員にとってのメリット」も明確に示すこと。
「この変化がもたらす未来の価値」をリーダー自ら語ることで、従業員は変化を前向きに受け止められるようになります。変化の理由が分からなければ、抵抗感だけが残ります。
②「信頼」を築くために:オープンなコミュニケーション文化の構築
信頼とは、単に「誠実であること」ではありません。「リーダーが一貫性を持ち、組織の透明性を高めること」。それが信頼構築の本質です。
リーダーが重要な判断を下した際には、その背景を従業員に共有することが不可欠。
「競争環境の変化により、今後◯◯市場に注力する必要があるのです」
「顧客のニーズが変化したため、サービスの提供方法を見直しました」
—このような説明が、従業員の理解と納得を促します。説明なき決定は、不信感の源泉となりかねません。
「社員アンケート」や「タウンホールミーティング」を活用し、現場の意見を積極的に収集。その意見をもとに経営判断を行い、「この提案を採用しました」とフィードバックする。この循環が信頼関係を強固なものにします。
現場の声を無視した経営に、持続的な成功はないでしょう。
「評価の場」ではなく、「成長の場」としてフィードバックを位置づける。
「この部分は素晴らしかった」
「次はこうするともっと良くなるはず」
—具体的かつ建設的なフィードバックを通じ、従業員が安心して成長できる土壌を整えていくのです。批判ではなく、前向きな提案がモチベーションを高めます。
③「思いやり」を実践するために:心理的安全性を高めるマネジメント
心理的安全性が確保された職場では、従業員のストレスが軽減され、主体的な行動が生まれます。創造性と協働が花開く土壌、それが心理的安全性なのです。
単なる業務報告の場ではなく、「働きやすさ」「キャリアの悩み」についても話せる時間の確保を。この対話の積み重ねが、従業員の安心感を醸成します。
「話を聴いてもらえる」
—この単純な体験が、実は大きな思いやりなのです。
失敗を責めるのではなく、「この失敗から何を学べるか?」を議論する文化の醸成が重要。
「チャレンジを奨励する仕組み」(新しいアイデアの提案制度など)の導入も効果的でしょう。失敗を恐れる組織に、革新は生まれません。
成果だけでなく、プロセスも評価し、「頑張りが正しく評価される組織」を構築する。
「〇〇のプロジェクト、準備の段階からしっかり進めてくれたね」
「顧客対応での細かい気遣いが素晴らしかった」
—このような具体的な承認が、従業員の自己肯定感を高めるのです。結果だけでなく、過程も大切にする。これが思いやりの本質です。
④「安定」と「変革」の両立:組織の適応力を高める方法
企業は成長のために変革を進める必要がありますが、従業員が「急な変化に振り回されている」と感じると、組織の一体感が失われるリスクも。この矛盾をいかに解消するか、それがリーダーの腕の見せどころです。
「いきなり大きく変えない」
「小さな変革を積み重ねる」
—このアプローチによって、従業員は無理なく適応できるようになります。
急激な変化は混乱を招き、結果的に組織の機能低下につながりかねないのです。小さな成功体験の積み重ねが、変革への信頼を育みます。
「ハイブリッドワークの最適化」を進め、一体感を損なわずに柔軟な働き方を提供する。これは現代のリーダーが避けて通れない課題でしょう。
働く場所の多様化と組織の一体感。この一見矛盾する要素の両立が求められています。
「この会社の方向性は変わりません」
「私たちはこういう価値を大切にしています」
—こうしたメッセージを繰り返し伝えることで、従業員に安心感を提供。方針がブレるリーダーの下では、従業員は常に不安を抱えることになります。
変化の中にも、変わらない軸を持つこと。これが安定感の源泉なのです。
4. リーダーシップとウェルビーイングの関係性
近年、「従業員のウェルビーイング(心身の健康と幸福)」が企業の成果に大きな影響を与えることが、さまざまな研究で明らかになっています。特に前章で解説した4つのリーダーシップ要素(希望・信頼・思いやり・安定)は、従業員のウェルビーイングと密接な関係があります。
まずは、効果的なリーダーシップがもたらすウェルビーイングの向上が、組織全体にどのような好影響を与えるのかを考察していきます。
ウェルビーイングが組織にもたらす効果
従業員のウェルビーイングが高まると、組織にはどのような効果があるのでしょうか?データに基づいた事実を確認してみましょう。
ウェルビーイングが高い従業員は、集中力が向上し、業務効率が顕著に改善するという研究結果が複数報告されています。精神的な余裕があれば、新しいアイデアも生まれやすく、イノベーションにつながる。心に余裕がなければ、創造的思考は生まれないのです。
働きやすさを感じる環境では、優秀な人材の定着率が高まります。「この会社で働き続けたい」と思う従業員が増えれば、採用コストも削減できるでしょう。人材の流出は、目に見えない大きなコストです。
個人のウェルビーイングが高まると、チーム全体の協力関係も強化される傾向が。「お互いを助け合う文化」が生まれ、組織の一体感が高まります。個々が心身ともに健康であれば、チームとしての機能も最大化するのです。
職場での役割を広い人生の文脈の中で位置づけることで、仕事への意義を見出しやすくなります。自分の仕事が社会や他者にどのような価値をもたらしているかを認識することで、やりがいや充実感が生まれます。
生産性を経済的な側面だけで測らないことで、物質的な豊かさとともに時間や経験の豊かさといった要素にも目を向けられるようになります。これにより、真に自分にとって価値のあるものに投資する自由が生まれます。
生産性の概念を拡張することは、心身の健康にも良い影響を与えます。過度な労働や成果へのプレッシャーから解放され、適切な休息や自己ケアの時間を確保することが、長期的な生産性向上にもつながります。
人間関係への貢献も生産性の一部と考えることで、家族や友人との時間を「非生産的」と見なすのではなく、人生における重要な価値創造として再評価できます。これにより、より深い人間関係の構築が可能になります。
コミュニティへの貢献を生産性の一部と位置づけることで、社会的な帰属感や貢献感が高まります。これは単なる自己実現を超えた、より大きな目的への関与をもたらします。
個人のウェルビーイングが高まると、チーム全体の協力関係も強化される傾向が。「お互いを助け合う文化」が生まれ、組織の一体感が高まります。個々が心身ともに健康であれば、チームとしての機能も最大化するのです。
4つのリーダーシップ要素とウェルビーイングの関連性
上記のようなウェルビーイングの効果を実現するために、4つのリーダーシップ要素がどのように働くのか、そのメカニズムを詳しく解説します。
将来への期待感は、前向きな気持ちをもたらし、メンタルヘルスにポジティブな影響を与えます。キャリアの見通しが立てば、「今の努力が報われる」という実感が生まれ、モチベーションが向上するのです。希望なき労働ほど、心をむしばむものはありません。
透明性のある組織では、不確実性によるストレスが軽減されます。リーダーへの信頼感があれば、従業員は安心して業務に集中できるようになるのです。疑心暗鬼の中での労働ほど、消耗するものはないでしょう。
共感を示すリーダーがいると、従業員は「自分は価値ある存在だ」と感じられます。認められることで自己効力感が高まり、メンタルヘルスにも良い影響を与えるのです。承認欲求は、人間の基本的ニーズの一つ。これが満たされることの意義は計り知れません。
予測可能性は、人間の基本的な安心感につながります。変化の中でも一定の安定感があることで、レジリエンス(回復力)が強化されるのです。未来が見通せないことほど、人間に不安をもたらすものはないのです。
ウェルビーイングを高めるリーダーの実践アクション
上記のようなウェルビーイングの効果と、リーダーシップ要素との関連性を踏まえ、リーダーは具体的にどのような行動を取るべきでしょうか?実践的な施策を紹介します。
リーダー自身が長時間労働を避け、休暇をきちんと取得する姿勢を見せること。「早く帰宅するのは悪いことではない」という文化を作ることが重要です。リーダーの行動こそが、最も強力なメッセージとなります。
従業員支援プログラム(EAP)の導入や、メンタルヘルスケアの研修を実施。「心の健康」について気軽に相談できる環境を整えることが必要です。メンタルヘルスの問題は、早期対応が何よりも重要なのです。
「長時間オフィスにいること」ではなく、「生み出した価値」で評価する仕組みを構築。時間や場所に縛られない柔軟な働き方を認めることが効果的です。プレゼンティーイズム(出社していても生産性が低い状態)を減らすことが、組織の健全化につながります。
「業務連絡だけ」のコミュニケーションではなく、「人間同士のつながり」を意識すること。チーム内での交流の機会を意図的に作り、孤立を防ぐことが大切です。特にリモートワークが増えた現在、意識的なつながりの場づくりが必要となっています。
ウェルビーイングを高めるリーダーシップを実践することで、従業員は安心して働き、最大限の能力を発揮できるようになります。それは単に「優しい職場」を作るだけでなく、組織の競争力を高める重要な経営戦略なのです。人が活きる組織こそ、持続的な成長が可能になる—このシンプルな真理を忘れてはなりません。
5. まとめ——これからのリーダーに求められること
本記事では、ギャラップ社の調査結果をもとに、これからのリーダーが持つべき4つの要素について詳しく解説してきました。
希望 (Hope) |
リーダーは未来を示し、従業員が働く意義を感じられる環境を作る。 |
---|---|
信頼 (Trust) |
透明性のある経営とオープンなコミュニケーションを通じて、組織の信頼を築く。 |
思いやり (Compassion) |
心理的安全性を確保し、従業員が安心して働ける職場を作る。 |
安定 (Stability) |
変革と安定のバランスを取りながら、組織の一体感を維持する。 |
これらの要素に加え、従業員のウェルビーイングを高めることが、組織の成長と業績向上に直結することも明らかになりました。では最後に、これらの知見を踏まえた実践的なアドバイスを以下にまとめてみましたので参考にしてみてください。
①これからのリーダーに求められる3つのマインドセット
これからの時代に適応するためには、単なるスキルの習得ではなく、リーダー自身の意識改革が不可欠です。
過去の「上から指示するリーダー」ではなく、部下を成長させ、組織全体を前向きに導く存在になることが重要です。希望を示し、従業員が前向きに働ける環境を整えること。これがリーダーにとって最大の役割となるでしょう。管理ではなく、導きを。これが新時代のリーダーシップの本質です。
組織の成長と従業員の成長は切り離せません。キャリア支援、リスキリングの機会提供、柔軟な働き方の推進を通じて、従業員一人ひとりの成長を支援すること。これが結果的に企業の競争力を高めるのです。「組織のために個人を犠牲にする」時代は終わりました。個人が輝いてこそ、組織も輝くのです。
結果だけを求めるのではなく、従業員が安心して働ける環境を整えること。これが長期的に組織の成果を生み出します。心理的安全性を確保し、フィードバック文化を定着させれば、従業員のモチベーションとパフォーマンスは自ずと最大化されるでしょう。短期的な成果より、持続的な成長の土壌づくりを。これが新時代のリーダーの視点です。
②実践すべき3つのアクション
マインドセットの変革を実現するためには、具体的な行動が必要です。以下の3つのアクションを意識すれば、より効果的なリーダーシップを発揮できるでしょう。
組織の未来像を明確に示し、「なぜこの変化が必要なのか?」を納得感のある形で伝えること。長期的なビジョンを持つことで、従業員は組織の方向性を理解し、モチベーションを高めることができます。抽象的な言葉ではなく、具体的な未来像を。これがビジョンの力を最大化する秘訣です。
リーダーが一方的に評価をするのではなく、「部下の意見を積極的に取り入れる文化」を作ること。1on1ミーティングやアンケートを活用し、従業員の声を経営に反映させる。この双方向のコミュニケーションこそ、信頼構築の基盤となるのです。「聴く」ことから始まるリーダーシップ。その威力は計り知れません。
DX推進や組織改革を進める際は、従業員が無理なく適応できるよう段階的に進めること。リーダー自身が一貫性を持ち、経営方針のブレをなくせば、従業員の不安は自ずと軽減されるでしょう。変化の時代だからこそ、変わらない軸を。これが人心を安定させる鍵なのです。
③「リーダーが変わる」ことで企業の未来が変わる
本記事で紹介した「希望」「信頼」「思いやり」「安定」の4つの要素。これらはどれも、リーダーの行動次第で実現可能なものです。
これからの時代に求められるのは、「従業員と共に成長するリーダー」。その具体的な姿とは、以下のようなものでしょう。
- 希望を示し、従業員が未来に期待できる環境を作る
- 信頼を築き、オープンなコミュニケーションを実践する
- 思いやりを持ち、心理的安全性の高い職場を作る
- 安定を提供し、組織の適応力を高める
- ウェルビーイングを重視し、心身ともに健康な職場環境を整える
この5つの要素を実践できるリーダーが増えれば、企業の成長だけでなく、日本全体のビジネス環境がより良いものになっていくはずです。
「リーダーが変われば、組織も変わる」
変化の時代を生き抜くために、今こそリーダーシップの在り方を見直す時ではないでしょうか。一人ひとりのリーダーの変革が、やがて社会全体の変革につながるのです。